Day6「彩り」

一年前、仕事を辞めて実家に帰った。

ドラマのシナリオに興味があって、通信講座を受講し始めた。

実地で勉強ができると思いテレビ関係に転職しようと考えていた。

 

でも、現実は甘くなかった。

マスコミで募集する人材は、ほぼ「実務経験あり」もしくは「AD」。

シナリオなんて、ど素人に書かせてくれる場所はないんだ、と

しょぼくれながらハローワークに通っていたある日、

地元のテレビ制作会社がディレクターを募集していた。

私の目に留まったのが、仕事内容に「台本制作」があったこと。

すぐに応募して、採用してもらった。

 

ドラマも作ってはいないが、そういうチャンスもあると言われた。

情報番組だけど、知らないことを知って台本を書くのは楽しかった。

映像を想像しながら台本に落とし込むのもできるようになってきた。

 

だけど、求められているのは、それだけではなかった。

「現場の指揮」と「演出の指示」

そう、地方のテレビ局では、監督がやる仕事もディレクターの仕事だった。

幼い頃から優柔不断で、AかBを突然言われても決めきれない。

誰かに指示するよりも自分でやってしまうし、演出を聞きながら文章でまとめたい。

 

忙しくなるにつれて台本に割く時間がなくなった。

撮影・演出と編集をする時間が長くなった。

 

違う。

心の中でやりたいことと現実とのギャップが大きくなった。

「こんな台本なら、誰でも書ける」

演出がうまく伝えられなかったとき、カメラマンからそんな言葉を浴びせられた。

もう、ダメだ。

心が苦しくなっていたとき、父が車の中で流した曲が、「彩り」だった。

 

「なんてことのない作業が この世界を回り回って

 何処の誰かも知らない人の 笑い声を作ってゆく」

 

ローカル番組だとしても、数%の視聴率で何千、何万の人が見ている。

これも実務経験になると信じて、精一杯やる。

一方で、次のステップに向けて準備を始めた。

それまでは、いまはまだグレーの世界を彩りに染めながら、誰かの笑い声を作っていきたい。