Day29「擬態」

春は別れと出会いの季節である。

学生の頃から春はワクワクと期待をせずにはいられない季節だった。

何か新しい出会いがあるかな?誰と同じクラスになれるかな?どんな人と一緒に働くのかな?

昔好きだった人と思いがけず再会したりしないかな?

 

漫画「パーフェクトワールド」はそんな運命的な再会から話が進む。

少女漫画育ちの私にとって、そんなロマンティックな再会は、状況的にオイシイ。

学生の頃に忘れられない片思いがあることも主人公と重なって、読み始めた。

 

一度目は、4年前。まだテレビドラマも放送される前。導入も絵も好きだった。

でも、主人公が再会した相手が事故で身体障害を負って、車椅子に乗るシーンで、思わず閉じてしまった。どんな話が展開されるのか知らなかったけど、怖くなった。ショックを受けた。

 

それから4年の月日を経て、「パーフェクトワールド」が再び私の目に触れた。

連載が終了したことで、出版社公式アプリで全話無料開放中という。

この4年の間に、私の身の回りではいろんなことが起きた。

学生からの恋の終焉。二度の転職からの無職。それに伴う転居。新しいことへの挑戦。・・・

 

今なら読めるかも、と思った。全話読めるチャンスを利用することにした。

読んでみると、話数を進めるごとに胸が苦しくなった。何度も何度も泣いた。毎日8話ずつ無料で読めるが、途中はそれだけじゃ足りなくてストックしておいたチケットまで使って一気に何十話も読んだ。

普通の恋愛漫画じゃないからと4年前に切り捨てた自分を殴りたい。もっと早くに読んでおきたかった。それくらい、心動かされる作品だった。

題名の意味がわかったときは、哀しくなった。

 

私も将来的に物書きとして生きていきたい身として、自分が経験していないことをどれだけ「リアル」に書けるかは課題だと思っていた。

作者の有賀先生は、身体障害を持つ男性と健常者の女性の恋愛を、特別ではなく日常としてなんてことないカップルの一つとして書いていた。

もちろん、障害が原因の葛藤や合併症、生活の苦労もきちんと描かれている。だけど、障害をハンデとか悪いこととか、そういう気持ちにはさせないストーリーだった。

 

長々と素晴らしい作品について語ってしまったが、この話を読みながら私の頭の中で何度も流れ、つい口ずさんでいた曲があった。表題の「擬態」である。

 

“富を得た者はそうでない者より満たされてるって思ってるの!?

障害を持つ者はそうでない者より不自由だって誰が決めんの!?

目じゃないとこ 耳じゃないどこかを使って見聞きをしなければ 見落としてしまう

何かに擬態したものばかり”

 

櫻井さんの歌詞は、小説的だと感じる。肉付けしたら、そのまま出版できそうなほどリアルだから胸に響く。葛藤や苦しみの描写が深いから、共感できる。

 

擬態は、何かを得た人だって何かを失った人だってただの日常を生きていて、その中で幸福や不幸を感じるのは同じで、何も特別なんてことはない。だから、誰かを羨んだり蔑んだりするのは違うし、夢を叶える機会は誰にでも等しく与えられているってことを言いたいんじゃないかと思う。

パーフェクトワールドを読んで、ここの歌詞の意味が少しわかった気がする。

 

ただ、その機会を見抜けるかどうか、掴めるかどうかは自分次第。

世の中には何かに擬態したものばかりだから。

自分がどんな人間であれ、騙されず流されず、現在を超えていく必要がある。

 

“今にも手を差し出しそうに優しげな笑顔を見せて

水平線の彼方に希望は浮かんでる”

 

正直、この「擬態」の歌詞を完全に理解するのは難しい。

だから、いつか櫻井さんにお話を伺える機会なんて奇跡的なことが起きれば

ぜひ制作背景なんて聞いてみたいな、なんて夢物語みたいなことを今日も考えている。

 

2021/04/05

 

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