Day19「口がすべって」
『流れ星が消える 瞬く間に消える
今度同じチャンスがきたら
( ? ) 願い事をしよう』
私が通っていた高校はカトリック系のミッションスクールだった。
年に一度、神父の話を聞く集会があった。
そこで神父が取り出したのが、「SUPERMARKET FANTASY」のアルバムだった。
言わずもがな、収録曲といえば「HANABI」や「GIFT」などが有名だ。
彼は、CDをプレーヤーにセットすると、一枚の紙を配布した。
そこに記載されていたのが、冒頭の箇所である。
「音楽を聴いてカッコに入る歌詞を記入してください」
そう言って、彼は再生ボタンを押した。
当時、ミスチルファン歴2年の私は、負けず嫌いな性格を発動して意気揚々と挑んだ。何回も聴いたことがある曲ではなかったが、周りと比べれば耳にしていたはずだから、これで正解して一躍脚光を浴びたい、などと浅はかな感情を抱いていたりもした。
結果はもう予想がついているだろう。
私は、ちっとも聞き取れなかった。普段、好きなアーティストをミスチルと言っていたから、羞恥心と悔しさで、穴があったら入りたい心境だった。
それと同時に、あのアルバムにはこんなにいい曲があったのか、と知れたことに嬉しくも感じていた。
改めて聴くと歌詞の流れが秀逸だなあ、と感服してしまう。
まず初めは、ある二人の男女(君と僕)が喧嘩するところから始まる。
男は、自分が悪いとわかっているのに、プライドとかメンツとかが邪魔して「ごめん」という肝心な一言が言えない。どうにかして許してもらおうと女に歩み寄るが、女はどこ吹く風で相手にしない。
そりゃ、そうだ。相手が悪いのに謝らずなあなあにされたって彼女の気持ちは収まらない。
二番では、身近な男女の話から、世界規模の話に変わる。
絶えず起きている紛争を他人事のように扱うメディア。
「難しいですね」で片付くほど簡単じゃないことはわかってる。だけど、隣にいる人と起こる諍いを解決するのも難しいのに、こんな大規模な問題を解決するなんてかなり至難の業である。
『誰もがみんな大事なものを抱きしめてる
人それぞれの価値観 幸せ 生き方がある
「他人の気持ちになって考えろ」と言われてはきたけど
想像を超えて 心は理解しがたいもの』
まるで小説を読んでいるように流れがきれいだ。自分たちと身近なストーリーがあるからこそ、大規模な話になっても聴いている人が置いて行かれない。そうだよな、とついつい頷いてしまう。
そして、ここで例の小節が流れる。
『流れ星が消える 瞬く間に消える
今度同じチャンスがきたら
自分以外の誰かのために 願い事をしよう』
相手を完全に理解するのは無理だ。育った環境も信仰も幸福を感じる瞬間もすべてが違うんだから。
だけど、相手の気持ちがわからなくても、思いやりの心で接することはできる。
自分とは違う考えを否定するのではなく、少しでも受け入れようとする姿勢が大事なのではないだろうか。
最後、また物語は君と僕の話に戻る。
『口がすべって君を怒らせた
でもいつの間にやら また笑って暮らしてる
わかったろう 僕らは許し合う力も持って産まれてるよ
ひとまず そういうことにしておこう
それが人間のいいとこ』